SHARE
iPS細胞による骨再生医療の研究を行っていた江草 宏は、異能vationプログラムでその研究をさらに推し進めた。主に取り組んだのは、骨再生に伴う腫瘍化の回避である。
(インタビューの前編はこちら)
iPS細胞はあらゆる細胞に変化することのできる細胞で、骨の再生にも利用することができる。しかしiPS細胞は制御が難しく、骨を再生するときに腫瘍ができやすいことが課題になっていた。
iPS細胞は生きている細胞だからこそ制御不能が難しく、それが腫瘍ができる大きな理由になっている。「だったら、iPS細胞を凍結乾燥して不活化し、生きた細胞ではない状態にすればいいのではないかと考えました」と江草は言う。
ただ、単に不活化するだけではiPS細胞が骨細胞に変化するように制御することは難しい。遺伝子操作を加え、骨細胞に移行した段階で不活化することで、iPS細胞を骨がないところに詰めたときにしっかりと骨として再生するようにした。これで動物実験を行ったところ、腫瘍を作ることなく、骨再生することに成功したという。
凍結乾燥による不活化は、腫瘍化することなく確実に骨を再生させる方法として大きな可能性を秘めていた。しかも、メリットはそれだけではない。iPS細胞は生きた細胞だが、活性がなくなるとその時点で生き物がモノに変わる。そのため医療機器という扱いになるため、認可が下りやすくなることが想定された。
さらに凍結乾燥して不活化したiPS細胞の粒を何かの素材で包むと、もっと骨再生の効果が上がるかもしれない──。開発の余地はまだまだ広大なものの、研究には確実に進展が見られた。しかし、実用化を見据えると別の領域で課題が見えてきたという。
それは、コストだ。iPS細胞を培養するには、相応のコストがかかる。アパタイトなどを化学的に合成して作る従来の人工骨は比較的安価に作ることができ、現状コスト面では従来方式のほうに圧倒的な軍配が上がる。
「iPS細胞を使って再生させた骨は、患者さんの体にしっかりと馴染み、強度も強いことが想定されます。しかし、効果があるだけが医療の価値を高めるわけではなく、医療の効果の分母にはコストがあります。コストが高くなれば、医療の価値も下がっていきます。世の中に出すためには、コストを下げることが非常に重要。これをどうやって下げるかが、実用化に向けての課題です」と江草は現実を見据える。
次回は、異能vationプログラム以降の活動について話を聞く。