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蓮尾高志は、視覚に障害のある人々がデータサイエンスの学習をしやすくするための研究を進め、ソフトの開発を行っていた。しかしソフトの開発だけにとどまらず、視覚障害者がデータサイエンスを学ぶ裾野をもっと広げるために異能vationプログラムに応募し、2020年度「破壊的な挑戦部門」挑戦者に選ばれた。
蓮尾が異能vationプログラム中に行ったことのひとつが、教員が使う補助教材を視覚障害者にもわかる内容にブラッシュアップすることだった。日本では学習指導要領が改訂され、2022年度から高校の「情報」の授業でデータサイエンスを学ぶようになっている。データサイエンスで中心的な役割を担うプログラミング言語Pythonの学習も含む本格的な内容ということで、改訂が決まったときに話題になった。
しかし、補助教材は基本的に目の見える晴眼者の生徒を対象として考えられている。目があまり見えなくても内容をフォローできるようにするため、コンテンツをブラッシュアップする作業を行った。
元となる教材は、文科省が作成し、ウェブにアップしているものである。まず著作権関係の問題に対処するため、異能vationプログラムのサポートで弁護士を付け、問題をクリアした。そして、内容を目が見えづらくても理解できるように改めていった。見えていることを前提にした表現は、見えていなくても理解できるように言い方を変えた。また、プログラミングを行っている視覚障害者に声を掛け、コンテンツに意見を求めた。
たとえば、パソコンの画面情報を音声で読み上げる「スクリーンリーダー」という分野のソフトがある。視覚に障害のあるプログラマーの人達は作業しやすい設定や使い方などに熟知しているため、これからデータサイエンスを学ぶ視覚障害者に向けて解説してもらった。
またプログラミングの方法についても、蓮尾がプログラミングを始めたときのやり方でコンテンツを作ると伝わりにくい。まず全体を把握し、少しずつ音で聞きながらプログラミングできるようになっていくという視覚障害者ならではの段取りを説明してもらい、コンテンツに盛り込んでいった。
そのほか、グラフを音で認識する視覚障害者用ソフトのバージョンアップなども行ったが、異能vationプログラム中に進めた活動の満足度は30%ほどだという。
「総務省や文部科学省などデータサイエンス教育を進めていく立場の人にもっと働きかけたかったですし、視覚障害を持った学生さんとか社会人の方にデータサイエンティストといった道があることを知ってもらい、もっと取り組んでもらえるようにしたかったです」というのが蓮尾の振り返りの弁だ。
次回は、異能vationプログラム以降の活動について話を聞く。