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2016年度異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」に選ばれた中安 翌。制作のモチベーションになっているのは、「今までになかった、面白いものを作りたい」という気持ちだ。
(インタビューの前編はこちら)
中安は以前、舞台の映像演出を手掛けていた。当時は、プロジェクションマッピングが登場し始めた時期。中安はいち早く舞台にプロジェクションマッピングを取り入れ、俳優やダンサーの動きと映像が連動するといった演出で高い評価を得ていた。
ただ、しばらくすると同じような演出がさまざまな舞台で見られるようになり、「今までになかった」ものではなくなっていった。
そこで次に取り組んだのが、「生物的、植物的な動きを、CGではなく実体で完全に再現する」だった。
中安は169枚の人工の葉が手の動きに反応してそよぐ「plant」、イソギンチャクの触手のような動きを見せる「Tentacles」などのユニークな作品を制作し、内外で展示を行った。そこで感じたのは、日本と海外の反応の差だった。
海外では、今までにない発想で作られた中安の作品に対して「Fantastic!」「Amazing!」という声が上がる。一方、日本では「何の役に立つのか」「何のためのものなのか」という声も多かったという。「見たことがないものを純粋に、それだけで面白がってくれる傾向は海外のほうが強いですね、僕がやっているのは、ロボット技術を使ってきれいな、生物的な動きを実現すること。普通の研究者はそうした動きの美しさを追求するという発想がないため、そうした反応になるのかもしれません」というのが中安の見解だ。
中安の作品はアート表現として作られているが、その技術の応用範囲はアートの世界に留まらない。たとえば考えられるのが、医療のリハビリテーションでの利用だ。中安が開発したアクチュエーターは、人間の指のように滑らかに、非線形に動く。「アクチュエーター自体を触ってもらうとわかるのですが、見た目の印象より力があります。グローブの中にこれを仕込み、ゆっくり動かすようにすると、指の運動のリハビリテーションに使えるのではないかと思っています」と中安は期待を表す。
最後に、異能vationプログラムへの応募を考えている人にこのようなメッセージを残してくれた。「自分1人で研究をしているとわからないかもしれませんが、変なことをやりたいと思ってる人は世の中に結構いるものです。異能vationは、そうした自分に近い感覚の人と出会うきっかけになりうると思います。そうした人とちょっと話すだけでもすごく刺激を受けるはずです」
そうした出会いが、新しい制作に向かう力になる。そのことを、中安は体感している。