SHARE
「うねうねわらわらアニマトロニクス」で2016年度異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」に選ばれた中安 翌は、以前から取り組んでいた「Tentacles」シリーズの進化に取り組む。
(インタビューの前編はこちら)
「Tentacles」は、形状記憶合金を使ったアクチュエーターによりシリコンチューブを動かす作品。シリコンチューブは、イソギンチャクの触手のように「うねうねわらわら」動く。2016年の「Luminescent Tentacles」は256本ものシリコンチューブの触手を備えていたが、平面上に並んでいるのが課題だった。
どのように、実際のイソギンチャクのような立体構造にするか──。中安が出した解決策は、「制御回路を載せている基板自体を立体構造化する」だった。
それまでの作品では、土台部分で基板が1枚の板状になっていた。それぞれのアクチュエーターには動作用、先端のLED用に複数の電気ケーブルが必要だ。土台の上に立体構造を作り、基板と立体構造上のアクチュエーターを電気ケーブルでつなぐと、基板とアクチュエーターの関係が非常に複雑になる。そこで、基板自体を立体構造にしてしまおうというわけだ。
ヒントになったのは、デザイナーや建築家などいくつもの顔を持つ思想家、バックミンスター・フラーのジオデジックドームだった。ジオデジックドームは、三角形の組み合わせだけで構成された球状のドームである。制御回路を小型化して三角形の基板に納め、ジオデジックドームの要領で組み合わせれば、半球状の構造物が出来上がる。そこにアクチュエーターを付ければ、基板とアクチュエーターの関係はシンプルになる。
また「Luminescent Tentacles」ではアクチュエーターを内蔵したシリコンチューブの先端には白1色のLEDしか付いていなかったが、LEDをフルカラー化。それぞれのアクチュエーターがバラバラの色でバラバラの動きをするよう、制御プログラムの開発も進めた。
こうした研究の成果が作品となったのが、2018年の「Tentacle Flora」。半球状に構成された基板から、イソギンチャクのように触手が伸び、揺れる。色とりどりのLEDが灯いた光景は、まさにTentacle(触手)のFlora(花)だ。
中安は異能vationプログラムの期間中、基板とアクチュエーターの接続方法を研究する中で画期的なアイデアを思いついてもいた。「接着剤を使わずアクチュエーターをいかに自立させるか、を考えたんです。そこで出てきたのが、張力を利用するアイデア。基板から直接アクチュエーターが生えているような形になります」というこの方法で、中安は特許を出願。中安が保持する特許のひとつとなっている。
次回は、制作のモチベーションについて中安に話を聞く。
後編に続く