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男性のおよそ11人に1人、女性のおよそ13人に1人が一生のうちに罹ると言われている大腸がん。大腸がんの検診率を向上させ、早期発見を目指すのが、2019年度異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」に選ばれた石井洋介の「うんコレ」である。
うんコレは、ひとことで言うと美少女が腸内細菌と一緒に戦うスマホゲームだ。主人公の美少女は、トイレの向こう側の世界「ウントピア」の住人。プレイヤーは、課金する代わりに自分のうんこの状態を報告(カンベン)することで腸内細菌のキャラクターを手に入れる。美少女は身にまとった腸内細菌キャラと共に戦い、「クリーブス」と呼ばれるがんをモチーフにした敵を撃破してウントピアの世界を守る、というのがおおまかなストーリーだ。
カンベンで異常のある便が続いた場合、病院に行くようにアラートが出るようになっており、早期の検診につながる仕組みだ。医師としてのスキルがどんなに高くとも、まずは大腸がんをできるだけ早期に発見できなくては手遅れになってしまう可能性もあるのだ。
大腸がんの早期発見を目指すというユニークなゲームを開発する原点には、石井の個人的な体験があった。
「僕自身、医者になる前に潰瘍性の病気になったことがあったんです。便から血が出ていたのですが、それが大きい病気につながっているとは思っていなくて、調子が悪くてもそのことを先生に伝えておらず、症状が悪くなっていたんです」と石井は振り返る。
排便の情報は、人に伝えづらい。その後石井は大腸がんの医師になるが、患者に便に異常がなかったかを聞くと、前から異常を感じていたという声が多かった。「お腹が痛かったりすると何かの症状かと思うかもしれませんが、便の変化は病気の症状として気づきにくいんですね。それで、便の変化が病気の表れかもしれないと啓発できるようになるといいかなと思ったんです」と石井は言う。
石井はもともとゲーム好き。啓発の手段としてゲームを選んだのは自然な流れだった。ただ石井は医師であり、ゲーム開発の専門的な知識はない。そこで石井は、さまざまな分野の専門家に参加を促し、チームとしてゲームを開発するオープンイノベーションの形を取った。
プロトタイプの段階からどんどんゲームショウなどに出展し、そこで開発に携わってくれる人を募集する。そのようにしてさまざまな専門家が参加することで、ゲームは石井が想定していた以上の仕上がりになった。
次回は、うんコレの開発プロセスについて聞いていく。
中編に続く