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山口浩平は異能vationプログラム中、介護施設で楽しめるフレンチのフルコースを3Dフードプリンターを使って作る挑戦を進めた。そしてその取り組みの中で、加齢や疾患により摂食嚥下機能に障害を持った人が楽しめる料理を作るシェフが少ないという現実に突き当たった。
そういうシェフが増え、摂食嚥下障害を持った人に対応できるレストランが増えると、摂食嚥下障害があっても外出する機会が増える。そうすると自ずと運動量や活動量が増えて、健康寿命の延伸につながり、国の医療費の削減や介護費用の軽減にもつながる。
「シェフとかレストランは、そういうポテンシャルのある社会資源なんだと思います。ただ現状では摂食嚥下障害を持った人はレストランに来ないので、そうした人に向けた料理が必要だということをほとんどのシェフが知りません。摂食嚥下障害を持った人向けの料理を作るシェフを増やすため、調理師学校の方々とそうした教育カリキュラムの検討を始めているところです」と山口は言う。
また、山口は3Dフードプリンターを使った料理の研究も続けている。人の味覚は、視覚から大きな影響を受けている。ピンクのものは甘く感じ、丸いものやハート型のものも甘く感じる。自由自在に造形できる3Dフードプリンターの特性を活かせる余地がここにある。
「特に大きな疾患がなくても、加齢につれて食欲が低下していくのが摂食嚥下障害のひとつの課題なんです。食べなくなって、低栄養になっていきます。よく訓練で改善する嚥下障害と訓練で改善しない摂食嚥下障害があるという言われ方もしますが、訓練で改善しないのはそういう食欲低下。でも、そういう方々の食欲を喚起するような食品のデザインって多分あるんですよね。3Dフードプリンターを使って、そういった方々に対する有用なソリューションを生み出したいと思っています」と山口は意欲を示す。
ただ、食品の色や形も、また味や栄養でさえも山口の最大の関心事ではない。山口が最も大事にしているのは、「楽しく生きられる」ことだ。
「究極的に言うと栄養も味もどうでもよくて、障害があっても楽しく生きられるようにしたいというのが私の思いです。食は人が生きる上でとても大事な要素だと信じているので、食を通じて死ぬまでハッピーになれる何かを作り出したい。そのために研究を続けていきたいと思います」。食べる喜びを、いつまでも。山口の挑戦はこれからも続く。