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2021年度の異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」で、山口浩平は3Dフードプリンターを使い、介護施設で楽しめるフレンチのフルコースを作る研究に取り組んだ。最終目標はフレンチのフルコースだが、まずシェフと3Dフードプリンターの技術者と一緒に、デザートとスープを作ってみることにした。
3Dフードプリンターは、圧をかけて食材を押し出し、積層させる仕組みになっている。入れる食材が柔らかすぎると、狙った形に積層するまでに潰れてしまう。また、積層には5分、10分と時間がかかるが、その間に食材の色が変わることがあることもわかった。
「キウイを使ったんですけど、実際にできたときには色がくすんでしまって、あまりおいしそうに見えませんでした。また、貝のスープに入れる帆立貝を精巧に作るなど、3Dフードプリンターで凝った造形をしようとしたのですが、それを複数の方に同時に出すというのは1台のプリンターでやるのは多分無理なんですね。実際にやってみることで、いろいろ課題が見えてきました」と山口は初期の挑戦を振り返る。
この経験を踏まえ、3Dフードプリンターは飾り付けなどのアクセントに使い、シェフの調理をメインにすることにした。そこで力になったのが、以前から知り合いのシェフだった。そのシェフのレストランでは5、6年前から摂食機能障害を持っている人にフレンチを提供しており、さまざまなノウハウを持っていた。たとえば、肉料理はたっぷり時間をかけ、舌と上顎で潰れるくらいまで柔らかくする。こうして前菜、魚料理、肉料理、デザートというフレンチのフルコースが完成した。3Dフードプリンターも、デザートの飾り付けなどに活用している。
出来上がった料理を介護施設で提供したところ、評判は上々だった。「高齢者なのでフレンチに馴染みのない方もいたと思うんですけど、喜んでいただけました。環境もちょっとレストランみたいな普段とは違う感じにして、非日常的なハレの雰囲気を味わってもらえたと思います」と山口は言う。
ただ、課題も残った。現状ではシェフの力を借りなければならず、3Dフードプリンターを使って多くの人に食事を提供することはできない。また、摂食障害を持った人に提供するための食事を作るスキルを持っているシェフがいないことも課題感として残った。「日本は超高齢社会になっていますが、高齢者の食に対応できるシェフやレストランが足りていません。超高齢社会の食に日本は対応できていないんです」。この意識が、山口の次の動きにつながっていく。
次回は、異能Vationプログラム以降の活動について話を聞く。