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健常者には見えていない世界を体験させる「発達障害者体験MRシステム」(前編)

2020年度「破壊的な挑戦部門」の挑戦者である宮﨑英一は、障害児のコミュニケーションを専門とする同僚との出会いから「発達障害者体験MRシステム」の開発に挑んだ。

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文:山本貴也

2020年度異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」に選ばれた宮﨑英一は、「発達障害者の困難を日常生活で体験するMRシステムの試作」に取り組んだ。

発達障害にもさまざまな種類があるが、多いのが視覚障害を伴うケースだ。ユーザーは、360度カメラとつながったヘッドセットを装着。360度カメラが撮影する映像はリアルタイムで処理が行われ、発達障害を持った人が見ているような世界を体感することができる。

360度カメラの映像をパソコンで取り込み、発達障害を持った人が見ているような映像をヘッドセットに出力する

宮﨑はもともと工学を専門としており、香川大学教育学部で技術教育に携わっていた。そして同じ大学で障害児の教育方法、障害児のコミュニケーション支援を専門とする坂井聡教授と出会ったことから、障害者の支援に携わるようになる。坂井教授との協働で、障害をもつ子どもの学習をサポートするアプリなどの制作を行った。

「ある日、坂井先生から『ICT(情報通信技術)を使って、発達障害を持った人が見ている世界を健常者が体験できるシステムが作れないか』という話があって、私が開発することになりました」という経緯で、新たな研究が始まる。

発達障害の症状のひとつに、視覚過敏による視覚障害がある。モノが二重に見えたり、動いているモノが軌跡を残しながら移動しているように見えたり、風景全体が強いコントラストで見えたりするケースだ。

このような障害をVRで疑似体験するデバイスは、それまでにもあった。ただ、そうしたデバイスはあらかじめ撮影した映像を加工し、それを見る仕組みになっていた。

「一種の映画を見ているようなイメージですね。確かに発達障害を持った人が見ている世界を理解することはできるのですが、自分自身の体験にはなかなかなりにくいという印象でした。そこで現実世界と仮想世界を組み合わせるMR(複合現実)の技術を使い、あらかじめ撮影した映像ではなく、発達障害を持った人が見ているように自分の周りの風景が見えるシステムを構想しました。深い障害者体験ができるシステムです」と宮﨑は意図を説明する。

宮﨑は、このアイデアで2019年度の異能vationプログラムに応募するが、その時は落選してしまう。しかし、アイデアを練り直して再応募。この粘りが実り、2020年度の「破壊的な挑戦部門」に選ばれたのだ。

次回は、異能vationプログラム中の活動について話を聞く。

中編に続く

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