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失われた“声”を取り戻す「Syrinx」(前編)

竹内雅樹

2020年度の「破壊的な挑戦部門」に選出された竹内雅樹。彼が取り組むのは、喉頭がんや咽頭がんで声を失った人が口パクをするだけで音声を発することができるハンズフリー型のウェアラブルデバイス「Syrinx」だ。

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文:山本貴也

2020年度の異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」に選ばれた竹内雅樹が開発したのは、ウェアラブル人工喉頭「Syrinx(サイリンクス)」だ。喉頭がんや咽頭がんで声を失った人が首に巻いて装着すると、口パクするだけで音声を発するハンズフリー型のウェアラブルデバイスだ。

竹内は大学時代、情報工学科でチップやプロセッサーの設計に取り組んでいた。そして、ロボットハンドの研究をする予定で大学院の工学系研究科に進学。そんなある日、一本の動画を見たという。空気を食道に取り込み、それをゲップの要領で吐き出して発声する食道発声の動画だった。

「合成音声が発達している世の中なのに、食道発声で出している声は機械音のように聞こえたんです。こういう声でしか話せないものなんだろうかと、率直に思いました」と竹内は振り返る。

竹内は以前、声に関するワークショップの手伝いをしていたことがあった。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者が声を失う前に自分の声を録音しておき、声を失ったあとに使えるようにするアプリのワークショップだ。その経験から「困っている人を技術を使って助けてみたい」という思いを抱いていた竹内は、食道発声の動画を見たあと、病気で喉頭を摘出した人が集まるコミュニティーに連絡を取ったという。

コミュニティーを訪れて話を聞くと、当然「手術をする前の状態に戻りたい」という人が多かった。喉頭を摘出した人が声を出す方法はいくつかあるが、どれもロボットのような音声になってしまう。電気式人工喉頭(EL)も使われているが、声が機械的なうえ、話をするときに片手でデバイスを首に押し当てなければならない。とっさに何か言おうと思ったときにも、デバイスを手に持って首に当てる動作が必要で、持っていても使っていないという人が少なくなかった。

既存の電気式人工喉頭(EL)でも喉頭がなくても発生のサポートはできるが、多くの問題を抱えている。

そこで「首に装着するだけで話しができるようなものがあったらいいんじゃないか」と考えた竹内は、従来の電気式人工喉頭をベースにしながら、ハンズフリー型ウェアラブル人工喉頭Syrinxの開発に着手した。

人工喉頭は、デバイス内の振動子の振動が喉に伝わって音になり、口と舌の形を変えることで話ができる仕組み。首に装着できるようにするには、デバイスの振動子を小型・軽量化する必要がある。しかし、振動子を小さくすると振動が小さくなって声が出なくなってしまう。ここが課題になったが、低周波数と高周波数の2種類の振動子を用いることで解決した。

また、ウェアラブルである以上、見た目も重要だ。装着したときに機械感が強くて目立ってしまうと、それだけで着けることに抵抗を感じてしまう。ここは、デザインエンジニアの力を借りることで解決し、スタイリッシュなデザインとなった。

こうしてプロトタイプは完成したものの、まだまだ課題はある。そこで推薦を得て、かねてから存在を知っていた異能vationプログラムに応募することになったという。

次回は、異能vationプログラム中の活動について話を聞く。

中編(9月5日公開予定)に続く


竹内雅樹プロフィール

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