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計算によってさまざまな色が分布された窪みに透明なアクリル球を埋め込むと、見る角度によってアクリル球の表面の色が変わる。藤木 淳はこうした窪みとアクリル球をモジュール化して組み合わせ、見る角度によって色が変わる立体物を作った。人形の表面をこのモジュールで覆うと、その人形全体が見る角度によって色を変える。
これだけでも画期的だが、藤木は見る角度だけでなく、時間の経過によっても色が変わる立体物を構想していた。藤木はこのアイデアで2016年度の異能vationプログラムに応募。その独自性が評価され、「破壊的な挑戦部門」に選出された。
どうやったら、モジュールの色を時間の経過によって変えられるのか──藤木の試行錯誤が始まった。
時間が経つにつれて色が変わる光をプロジェクターで投影する方法はどうか。原理的に光は変化するが、大掛かりになってしまい応用に向かない。平面のディスプレー上に半球のレンズを付ける方法はどうか。ディスプレイに映す色を変えていけば、レンズの表面に現れる色も変わっていくはずだ。しかし屈折率の関係で余計な色まで見えてしまい、思ったような効果は出なかった。ただ、ディスプレーとレンズの間にある程度の距離を設けたほうがより効果が上がることは発見だった。
アイデアが浮かんだら試作し、失敗したらまた考えて試作する。この繰り返しだ。「なかなか次のアイデアが出てこず、煮詰まった時期もありました」と藤木は言う。
突破口になったのは、窪みに穴を開けるアイデアだった。窪みにいくつもの穴を開け、その下にLEDを置く。するとLEDの光が穴から漏れ出し、窪みがディスプレーのような状態になる。そしてLEDの色を変えていくと、窪みの上に乗せたアクリル球の色も変わっていくという仕組みだ。LEDと窪みの間に距離があったほうがいいのは、ディスプレーのときの発見でわかっていた。
「このアイデアは原理的にはいいのですが、実践のためにはまだ煮詰めるべきところがありました。僕は電子工学にはそれほど詳しくなく、簡単な電子回路しか組めないので、この方法でもそれぞれのモジュールが大きくなってしまうんです。異能の期間中には実現しませんでしたが、この方面に詳しい協力者がいたら大きな成果が出そうだという感触はありました」と藤木は振り返る。
次回は、異能vationプログラム以降の開発について藤木に話を聞く
中編に続く