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2019年度の異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」に選出された生駒卓也の「点検出AIシステム」は、世界に存在するさまざまな“点”を抽出するシステムだ。夜空の星や顕微鏡で見た細胞、衛星写真に写った漁船やダムなど、人間の目では見逃してしまうような微細な点をスピーディーに検出し、ひと目でわかる画像として情報処理する。
生駒がプログラミングを始めたのは、物理学を専攻していた大学時代のこと。独学でプログラミングの勉強を始めたところ、その面白さに夢中になり、大学で学んだ物体運動のシミュレーションなどを自分で作成したプログラムで行った。またその知識を趣味の天体観測に応用し、天体写真の補正ソフトなども作っていたという。
大学を卒業すると就職のため東京に出てきたが、夜空があまりにも明るいため天体写真を撮影することができない。そこで、勉強を始めていたAIを使い、「東京で天体写真を撮る」「最低限の機材のみを使用し、障害はソフトウェアで取り除く」ことに挑戦したのが、この挑戦のそもそもの始まりだった。
AIは、公開されているデータを用いるだけでは生駒が望む形にはならない。そこで同一箇所の画像を大量に用意し、照明器具の光がもたらす光害の除去、日周運動によるずれの補正、複数の画像を重ね合わせるコンポジット合成などの技術を使い、AIをトレーニング。AIの学習法のひとつであるディープニューラルネットワークを利用しながら、都心でも鮮やかな天体写真が撮影できるオリジナルのAIを作り上げた。「東京で初めて5等星を撮影できたときはうれしかったですね」と生駒は言う。
生駒はこのシステムを2014年度の異能vationプログラムに「天体写真のAI」として応募していたのだが、選出には至らなかった。しかし、そこで終わらないのが生駒だ。
「都心の夜空で星が撮影できるAIでは、社会的なインパクトがそれほどなかったのではないかと思いました。異能に応募してからもこのシステムについていろいろ考えていたのですが、ある日、画像上では星も細胞も同じ点として見えることに気づきました。そこで星に限定するのではなく、点を抽出するAIとして再スタートすることにしたんです」と振り返る。
そして生駒は、画像・映像からさまざまな点を抽出する「点検出AIシステム」を構想。2019年度異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」に応募し、選出された。
次回は、「天体写真のAI」から発展させた異能vationプログラムでの「点検出AIシステム」開発について聞いていく。
中編に続く