前編では松本光広が挑む「超人化スーツ」の概要とその発想に至る過程を聞いたが、今回は実際の制作について話を深掘りする。
異能vationプログラムのためにアイデアを練った超人化スーツ。採択されてから制作を開始し、約1年後の報告会のときにやっと形になったという。人が着込むという構造なので、ロボットに搭載するようなセンサーや処理系を付けると重くなりすぎて動作に支障を来す可能性がある。そのため、小型で軽量なセンサーと振動子をセットにして1つのユニットとし、それをいくつでも自由に付けられるような形状に至った。しかし、当初は全身タイツのように着込んで、全方向にセンシングできる構想だったんだとか……。
「異能vationプログラムに応募して説明に行ったときは全身タイツの構想を見せたので、相当変だと思われたかもしれません。しかし全身タイツみたいなものを着るのは恥ずかしいという感じがあったので、背後からと頭の上から来るモノが一番わかりづらいだろうということでベストと帽子を分離して作りました」
プロトタイプとはいえ、確かに全身タイツを着込むというのはハードルが高い。
なお、実際の制作は、かなりスムーズに進んだそうだ。
「構想が結構まとまっていて、かつシンプルに作れるようにしていたので、いざ作ろうとしてから何かうまくいかないということはあまりありませんでした。瓜二つではないですが、構想図をほぼそのまま実現することができました」
基本的には松本が自宅でコツコツと電子回路をハンダ付けしたり、服を縫ったりしながら制作を進め、部品の加工といった特殊な作業だけを業者に発注していたという。
では、完成した超人化スーツを見て、周囲の人はどういう反応を示したのだろう。
「最初はみんな、センサーの振動に対してくすぐったいねって言います。それが第一段階。でも広いところにモノを置いて、その方向にあることがわかるとすごいねと言ってくれました。目を瞑っていても後ろを見なくても、モノがあることが背中の感覚でわかる。上に何かあると、頭で感じ取れる。だから面白いね、と。身内は首をかしげる人が多かったですが(笑)。
あと、動きにくいんじゃないのかとか、何に使うのかあまりイメージができないという厳しい意見もありました」
視覚にも聴覚にも頼らず、モノの存在を振動(触覚)によって感じられる超人化スーツ。将来的にはたとえば、女性が着込んで夜道で後ろから誰か近づいてきたらわかったり、帽子をかぶって工事現場でモノが落ちてくる前に避けたりなど、応用の可能性は広い。もっとも、今はワーキングサンプルという段階なので、実用化への課題はまだまだたくさん残っているだろう。
「今はセンサーが少し突き出ていたりするのでもっと小型にする、1kgはない程度ですがバッテリーがちょっと重いので軽量化する、そういういったところを改善すると実用化により近づくかなと思います」
後編に続く
松本光広プロフィール