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口内や目の動きなどで動くウェアラブルデバイス「耳飾り型コンピュータ」(中編)

谷口和弘

異能vationプログラムに採用される以前に、実は谷口和弘の「耳飾り型コンピュータ」はかなり実用の域に達していた。では、なぜ谷口はプログラムに応募したのか? それは欠けている2つの要素を実現するためだったと言う。
取材・文:山本貴也

谷口和弘が開発した耳に装着するウェラブルデバイス「earable」(イアラブル)は、外耳の動きから目や舌の運動、咀嚼、表情などの情報を得る画期的なものだった。

インタビューの前編はこちら

谷口も、earableの機能には満足していた。「しかし、earableには決定的に欠けているものがあると感じていました。その欠けている領域を追求したくて、異能vationプログラムにしたんです」と谷口は言う。

谷口がearableに欠けていると感じていたもの。そのひとつが、装飾品としての魅力である。

earableの開発を進める中で、谷口は服飾に関する人類の歴史を調べた。一般的に、人間は寒さを防ぐために服を着ると思われている。しかし、調べてみると、寒い地方に服を着ない文化があり、また暑い地方には服を着る文化があった。「防寒という機能だけでは、服に関する人類の歴史を理解することはできません。服を着るという行為には、自分の魅力を増幅したいという基本的な欲求があります」と谷口は言う。

耳に関しても同様だ。イヤリングなどの装飾品で耳を飾る文化は世界中にある。こうした装飾品は、機能的な面では説明が付かない。「自分を美しく飾りたい。自分を魅力的に見せたい。こうした基本的な欲求を満たすものでないと、いくら機能が優れていても着けてもらえないと思いました」と谷口は開発の理由を説明する。

谷口が考えた人類共通の美。それは、光だった。光の源である太陽を神と崇める太陽神信仰は世界中にあり、光は美と捉えられている。太陽とその周りに発生する光の輪である日暈をテーマに、earableをデザイン。光発電で充電を行い、光計測で測ったデータを光通信で送るという光づくしのデバイスとした。データはスマホに送って自分で健康管理できるようになっているなど、機能面も充実。名前は、日暈を英語で表す「halo」とした。

「halo」本体

「halo」本体

「halo」のケース

「halo」のケース

人類共通の美とともに谷口が考えたのが、日本の伝統美だった。室町時代から続く華道の文化を取り入れるため、いけばなの基本的な型を分析、デザインの核とした。材料には深みのある赤が特徴の高級木材・マホガニーを使用し、職人が繊細に削り出しを行って日本の美を表現した。こちらの名前は、「Nakomi(和)」だ。

「Nakomi(和)」

「Nakomi(和)」

谷口が、外観の魅力とともにearableに欠けていると感じていたもうひとつのこと。それは、「心地良さ」だ。

耳に当たる部分に突起を設け、ツボをマッサージするような心地良さを狙った。また、突起のひとつひとつが赤外光を発して脳の中で光を受容する器官である松果体を刺激、柔らかな光を浴びているような感覚を生むようにした。「外観の美しさが精神的な満足につながるものだとしたら、心地良さは肉体的な満足につながるもの。心身の欲求を満たして、初めて人の心に刺さるものになると思いました」と谷口は言う。機能に加えて、外観の美しさと心地良さ。異能vationプログラムの支援による探求で、earableに欠けていたピースが埋まった。

次回は、制作のモチベーションについて谷口に話を聞く。

後編に続く


谷口和弘プロフィール

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