大曽根宏幸は、キーワードを入れるとタイトル、あらすじ、文章化されたフレーズなどが自動的に生成されるシナリオ作成支援AI「BunCho」を開発。そのバージョンアップを図るため異能vationプログラムに応募し、2020年度の「破壊的な挑戦部門」の挑戦者に選ばれた。
それまでのBunChoに足りなかったのが、プロットを生成する機能である。小説ではあらすじだけでなく、ストーリーを場面ごとに整理したプロットをあらかじめ作成しておくと、全体のガイドとして機能して執筆をスムースに進めることができる。大曽根は異能vationプログラムのサポートを得て、クラウドソーシング企業に協力を依頼。あらすじから詳細なプロットが作成されるプログラムを組んだ。
この機能ではあらすじを入力すると、誰が、どこで、どういう出来事に遭遇するかというプロットが自動的に生成される。たとえば、「幼馴染が魔王によって殺される夢を見る勇者が、未来を変えるため、魔王を倒しに行く」といったあらすじを入力する。すると、「勇者」が「見覚えのない部屋で目を覚ます」場面で、「見知らぬ場所で目を覚ます」「知り合いが一人もいないことに気づく」「ここがどこだか尋ねる」といったプロットが提示されるといった具合だ。こうしたプロットがあらすじの最初から最後まで設定されるため、生成されたプロットを参考にすれば小説を書き進める上で大いに参考になる。
大曽根が異能vationプログラムで取り組んだのは、小説執筆のサポートだけではない。BunChoにゲームエンジンのUnityを組み込み、小説を基にしたノベルゲームの開発にも着手した。プロットを読み込ませると、場所、キャラクターに応じて背景やキャラクターの立ち絵が表示される。またストーリー内で起こる出来事を解析することで、体力や好感度などのパラメーターが増減する仕組みも取り入れた。たとえば、登場人物が木の切り株に座って休むと、体力のパラメータが回復するようになっている。
「異能vationプログラムが始まる前に想定していたものの7割くらいはできたと思っています。ただ、BunChoの開発を始めたときからの課題だった地の文の自動生成については、プロットと矛盾してしまう内容を生成してしまうことがよくあって、やはり課題として残りました」というのが、異能vationプログラムの期間中を振り返っての大曽根の感想だ。
次回は、異能vationプログラム以降の活動について話を聞く。
後編に続く