異能vationプログラムの期間が終わったあと、加山晶大は仕事が多忙で「依りシロ」の開発にあまり時間が割けていないという。しかし、方向性はいくつか見えている。ヒントになったのは、異能vationプログラムでの審査員からのフィードバックだった。
「ある審査員の方から『ハンガーっていう形状にもっと着目して、ハンガーでしかできない人とモノのコミュニケーションをもう少し考えてみたらいいんじゃないか』という意見をいただきました。僕は服をぶら下げた状態でどういった動きを服にさせるかというところに目が行きがちだったのですが、ハンガーだから手に取ったりとか、別の場所にかけたりとかいうことももちろんできるわけです。そういった部分はまだ全然掘り下げられていないので、考えてみたいですね」と加山は目を輝かせる。
「依りシロ」の一番シンプルな設定では、前に立っている人の動きをカメラが捉え、その動きをハンガーに掛かっている服が真似るようになっている。しかしあるイベントに出展したときは、3人の来場者が「依りシロ」の前に立ち、「1人の動きにしか反応しないのか」と聞かれたという。
「いろんな人に見てもらうと、僕が全然想定していなかった視点で使ってもらえたり、質問を受けたりすることがあります。そうしたとき、自分に見えていなかった可能性があることに気づかされます」と加山は言う。
最後に、異能vationプログラムへの応募を考えている人にこんなメッセージを残してくれた。
「自分もそうだし、異能vationプログラムに選ばれたほかの人達を見ていても感じるんですけど、基本的に異能に申し込む申し込まないに関わらず、勝手に作る人達だと思っているんです。逆に、何も作ってない状態で応募しても、審査員がそれを評価してくれるのかはちょっと怪しいような気がします。ですから、面白いアイデアがあったらとりあえず手を動かして作る。異能vationプログラムは、そうしたモノ作りをより面白くするためのひとつのツールくらいに考えればいいのではないでしょうか」
衣服以外にも、日常生活にあるモノに動きを組み合わせて、コミュニケーションを拡張したり楽しさを日常に増やしたりしてみたいという加山。そのユニークなモノづくりは、異能vationプログラムが終了した現在も続いている。