人の体をオブジェクトとしてAR空間上に自由に配置できるカメラアプリ「ARama!(アラマ!)」を開発していた守下 誠は、異能vationプログラム期間中にデモンストレーション版を進化させた。
デモンストレーション版はシステムが脆弱なところがあり、バグがあって時々落ちたり、オブジェクトをたくさん作ると画面の動きが遅くなったりすることがあった。そうしたアラを見直し、潰していった。
また、さまざまなデバイスへの対応も課題だった。今はさまざまな種類のデバイスがあり、スマートフォンとタブレットでは画面の大きさひとつとっても大きく違う。サイズが違うと、表示される幅が変わってくる。テストをしないままで出すと、予想外の見え方になってしまうことがある。
異能vationプログラムの支援により、ARアプリの開発に必要な大画面ディスプレーなどをそろえて作業環境を整えるとともに、テスト用にデバイスを購入。さまざまなタイプのデバイスに適応できるよう、システムを組んでいった。
そして、より大きな課題が「いかに使いやすくするか」だった。ARama!には、画面上にいくつもの体を複製したり、録画できたりするなど、さまざまな機能が付いている。
「デモンストレーション版を体験展示する機会が何回かあったのですが、僕が隣にいてこれはこう使ってこう遊ぶとレクチャーしないと、なかなか使いこなしてもらえないんです。最終的にアプリケーションとして展開することを考えていたので、それではダメだと思いました」というのが守下の問題意識だった。
しかし、平面デバイス上でARのような三次元空間を扱うには限界があり、どうやって使いやすくするかは他のいろいろなアプリでもまだ研究されているような段階。工夫するのに時間がかかった。
「使われ方を想定しながら開発を進めるのですが、これでいいだろうと思って作ったユーザーインターフェースが全然違う使われ方をするようなこともよくあります。自分以外の誰かが要因として関わってくると、予想しきるのは難しいことを実感しました」と守下は言う。
守下が期待する使われ方がされないケースがある反面、想定していなかった面白い使われ方をされることもあった。守下はARama!で、全身を切り取ってARの映像上に置いていく使い方を想定していた。しかし、実際に使ってもらうと手だけを切り取って床に生やしたり、顔だけを切り取って空に貼り付けたり、体の一部を何かに見立てて使う人がいた。
「使っている人の職業とかバックボーンによっても、違った使い方のアイデアが出てきます。ファッション系の仕事をしている人は、これを使えば着替えしなくても服を見比べるのが簡単になるよねという話をしてくれたり、陸上競技やっている人は録画しておけば走り幅跳びのフォームを後で確認できて便利という話をしてくれたり。こうしたリアクションを通して、普通なら話すことがない人とコミュニケーションができるのはうれしいですね」と守下は笑う。
次回は、異能vationプログラム以降の開発について話を聞く。