中野裕介”>(電マーク)
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鶏卵は人類の貴重なタンパク源である。この卵を、増大する需要に応えつつ安定的に生産していくために必要になるのが、ニワトリのヒナ(ヒヨコ)の雌雄鑑別だ。

ヒヨコの雌雄鑑別は、熟練した鑑別師によって手作業で行われている。これは日本独自の技術で、「初生雛鑑別師(しょせいびなかんべつし)」という資格を持つ日本の鑑別師は、日本はもとより各国の孵化場でも活動する。

「われわれが注目しているのは、インドです。世界で卵の生産が多いのは中国やアメリカですが、インド、インドネシア、パキスタン、ナイジェリアといった人口が多い国には、まだまだ伸びしろがあるんですよ。またこれらの国には、宗教的な制約──ヒンドゥー教なら牛肉がダメ、イスラム教なら豚肉がダメといったタブーがあります。国民が良質なタンパク質を摂取するために、非常にコスト安く生産できる卵はとてもニーズがあるんです」

中野が創業した有限会社電マーク(香川県高松市)がこの分野に着目し、研究開発を始めたのは3年前だ。最初にロボットでヒヨコをピックアップする技術の開発を行った。その映像を公開したところ、駐日インド大使が高松まで見学に来たという。「特別な技術がなくても雌雄鑑別できるシステムができるようなら、ぜひ我が国に導入したい」ということだった。

「雌雄鑑別の自動化は価値のある研究開発だ」と、中野は思った。

紫外線利用のアイデアが突破口を開く

人間の鑑別師は、ヒヨコを一羽ずつ手で掴み、羽の伸び方の違いで雌雄鑑別をする(羽毛鑑別。他にも鑑定法は存在する)。レモンイエローのヒヨコの羽は、人の視覚でも、RGBの映像情報でも微妙な色合いの違いでしかなくて、見分けにくい。

ヒヨコ

ヒヨコの雌雄判別は素人はもちろん、プロの鑑別師でも非常に難しい作業だ

まず中野は、ハイパースペクトルカメラを用いて可視光領域で分光から加工画像を作成、AIのディープラーニングを試してみた。これで、雌雄判別が100%可能になったのだという。大成功だ。

「ところが、各技術の確認ができたにすぎませんでした。ハイパースペクトルカメラは、200万円以上もします。高価なんですよ(苦笑)。このカメラを使ったシステムは、価格面が製品化の障害になる。製品化の壁にぶつかりました」

中野はハイパースペクトルカメラの成分を分析し、紫外線に近い波長に強い反応が期待できることに注目した。いくつかの紫外線の波長をテストしたところ、ヒヨコの翼羽部に励起現象が発現することを見つけ、一般のカメラでも羽が赤く発光した現象を捉えることに成功した。これまで知られることがなかった発見である。現象の解明と、最適な紫外線波長の究明には、件のハイパースペクトルカメラが大いに役立った。

励起現象

ヒヨコの翼羽部に励起現象が見られる

かくして、挫折しかけた製品化の道は、再び開けていく。現在、電マークのヒヨコの雌雄鑑別システムは、プロトタイプの製作が進んでいるところ。今秋にはインド市場にプロトタイプを持ち込み、セールスを開始する予定だ。

「この製品で、AIを使ったサブスクリプションモデルに挑戦しようと考えています。何万羽を鑑別したら何万円といった、ライセンスが発生するような仕組みも一緒に売り込みたいんです。AIのような、サービスと一体になって進展する技術にはこんな契約が必要になるはず。しかし、まだまだ具体例は少ない。明解なライセンスの形を実現していきたいです」

【Youtube】 引用:The Chick Sexing Robot / DEX / (2017/12/08)

苦境も地方ハンデも乗り越えて、その先へ

このシステムは、中野を含めた4名で研究開発されている。「この体制がまたユニークなんですよ」と、中野が各人を紹介してくれた。

シニアアドバイザーの山崎準一(Yamazaki Junichi)は、IT関連の大企業や研究所に在籍経験のあるスペシャリスト(神奈川県在住)。プログラミングを担当するエンジニアのアマニ・ベン・マッサ(Amani Ben Moussa)は、チュニジア出身でインターンシップをきっかけに開発チームに加わった(大阪府在住)。映像解析を担当する太田和人(Ota Kazuto)は地元出身の社員で、電マークの映像事業のドローン担当だ(香川県在住)。

「リモートワークでの開発になっています。うちのような地方の中小企業に開発者を呼び込むのはなかなか難しい。外国人のエンジニアとなればなおさら、です。私のプロジェクトと彼らがうまくマッチし、良いかたちで共働できていることも皆さんに知ってもらいたいです」

「地方ならではの研究開発環境はあると思います。都市部では不可能な、ヒヨコをたくさん使った実験ができています。また、起業家がアメリカや中国の市場を目指すパターンはよくありますが、我々のようにインドやアジアの国でAIやIPCをどう活用していくかを考えているところはそうない。ここでこうしてやっているからこそ、出てきた発想だとも思います」

山崎、アマニ、太田は、声をそろえて「中野さんはアイデアがぽこぽこ出てくる面白い人」と語る。アイデアマンで異能の人の中野が牽引する会社、電マーク。電マークのこれまでについても、少し触れておこう。

電マークは「デジタル体験を世界に向けて発信したい」と、2000年に起業された。研究開発も設立当初から行い、10年前には大手企業に先駆けて、IoTデバイス向けのSDカードサイズのボードコンピューターを開発していた。その製品化の目処が見えた矢先、東日本大震災が発生。プロジェクトはすべてペンディングとなり、電マークは苦境に陥った。

研究開発をやむなく中止、新規巻き返しをはかって中野が取り組み始めたのが、映像事業だった。

「海外で見かけるようになったライブ配信を地方発でできないかと考えたんです。屋外の現場から、高画質で大容量の映像を遅延なく通信できる技術を持っている会社は、そうはない。乗り出しました。当社が手掛けた2017年のラフティング世界選手権では、4機のドローンと放送業務用の双方向映像通信機器を使い、ライブ中継を行うことができました」

【Youtube】 引用:IRF World Rafting Championships ラフティング世界選手権 [先進的コンテンツ技術による地域活性化促進事業] / DEX / (2018/1/22)

3年前からはAIの普及を見据え、AIとロボットを含めた研究開発を再スタートできるようになった。そこからの流れが、ヒヨコの雌雄鑑別システムにつながっている。

「現在考えている新規プロジェクトは、映像技術とAI技術を融合させたものです。現在AIは、画像や映像からの物体認識は得意になっていますけれど、位置や距離を認識する技術は手薄です。複数台のカメラで撮った映像から、物体のロケーションや位置情報をリアルタイムで検出、CGも使ってアミューズメントとして見せていくプロジェクトに取り組もうとしています」

具体的には、ボートレースへの応用が考えられているという。

さて、ヒヨコの雌雄鑑別だが、現在日本では年間約2億羽のヒヨコ鑑別がなされているという。インド市場で見込まれているのは、年間8億羽。

「インドでのプロトタイプのセールス後、製品としての出荷となれば初年度100台、次年度以降は200~300台を目標にしていくことになるでしょう」

スケールを取りにいくための、インド進出。この中野の発想は、少なくない起業家や、地方に地盤を置く企業の多くの参考になるはずだ。

 

プロフィール
中野裕介(なかの・ゆうすけ)
1975年生。1998年、早稲田大学政治経済学部卒業。2000年に有限会社電マークを設立し、代表取締役に就任する一方で2003年には香川大学大学院工学研究科博士前期課程を修了。主な実績は、総務省戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)受託 (2010年)、科学技術振興機構研究成果最適展開支援プログラム(A-Step)採択(2011年)、経済産業省先進的コンテンツ技術による地域活性化促進事業採択 (2017年)、ABB YuMi Cup 2017ファイナリスト選出(2017年)、ICTビジネスモデル発見&発表全国大会中小企業庁長官賞受賞(2018年)など。


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