瞳輝インタフェース。

瞳孔の動きが内なる感情を示す

サッカーボールほどの半球ディスプレイに、ブルーで縁取られた黒い円が表示されている。この装置は1個だけでは一風変わったオブジェにしか見えない。2つが横に並ぶと、あら不思議、「目玉」になった!

瀬島による「瞳輝インタフェース」は、人間の目玉を模して作られている。眼球を半球ディスプレイは、瞳孔を黒い円、虹彩をブルーの縁取りで表現している。

Yoshihiro Sejima Standing with his arms crossed

人はさまざまな方法で相手とインタラクションするが目立たないようで重要なのが瞳孔の変化だと瀬島氏はいう。勤務先の関西大学にて。

人間と同じようにこのインタフェースは、音声に反応して瞳孔が拡大/縮小し、ぐるぐる動いて対面者と視線を一致させる。眼球運動をコントラストよく表現するため、虹彩は日本人によくある茶色ではなく、ブルーにしたとのことだ。

「僕が研究しているのは、『どうしたら人間はロボットを“好き”になれるのか』なんです。それっぽく言うとヒューマン・ロボット・インタラクションの研究開発なのですが、僕は『僕が本物の奥さんよりロボットのほうを好きになる日は来るのか』なんてことを考えながら、システムやロボットを作っては評価実験をしています」

そもそも“好き”とは何なのだろう? 愛着心や親近感、さらに愛情は自然に発生してくるようだけれど、そこには複雑な人間の「心」の動きが作用しているのは間違いない。

また人間は、他人とコミュニケーションをすることで他人と心をつなげていく。そのコミュニケーションは、声(言語)や顔(表情)、身体のしぐさ(動作)で行われるが、最もシンプルで直接的なものが瞳孔の拡大/縮小だ。しかも、瞳孔運動は呼吸と同じ自律神経系の活動のため、意識的にコントロールできない。興味や関心のあり/なし、ストレスのあり/なし、快/不快、緊張、恐怖といった内なる感情は、瞳孔の開き具合でストレートに伝わってしまうのだ。

瞳孔活動をわかりやすく再現して検証するため、余分な器官構造をそぎ落とし、瞳孔筋運動のみにミニマル・デザインされたのが、この「瞳孔反応インタフェース」だ。サイズは実際の眼球の10倍の大きさに相当する。

これで瀬島は、コミュニケーションにおける視線と瞳孔の関係を探ってきた。さらに、アイコンタクト(視線一致)してから視線の方向を変化させる「あっち向いてホイ」機能を加えたり、サーボモータで絞り羽が開閉する「瞳孔反応独立制御」機能を加えたりと、ひとつの機能を追加して評価実験も繰り返してきた。

瞳孔反応インタフェースの実験のためのロボットで「あっち向いてホイ」をしているところ。ランダムに瞳孔を変化させるだけでも、人はこのロボットに対して真剣に話かけるようになるという。

ペットロボットもある。クマのぬいぐるみの眼球部に、近接覚センサで瞳孔反応する目を埋め込んだものだ。もともと愛らしい見た目のぬいぐるみだが、その瞳は人が近づくと1.5倍拡大する。いかにも「かわいがってくれるんだね」とぬいぐるみが期待するかのように。このペットロボットの使用感は、「もっとかわいくなった」「親近感がある」「触りたくなった」と好評だったという。

集団に話しかける時には左側を見よ!

瀬島がこの分野の研究を始めたのは、渡辺富夫氏(岡山県立大学情報工学部教授)に師事してからのこと。母子間のコミュニケーション研究を行う渡辺氏は、無意識に人のしぐさや振る舞いが同調し、相手を引き込む「エントレインメント現象」に着目していた。言語や文化を持たない赤ちゃんが母親と心をつなげられるのは、お互いの身体的リズムが同調するからではないか、と探求していたのだ。

渡辺研究室で瀬島は、身体的リズムを生み出す頭部の動作、視線を生み出す眼球運動を解析して、身体的リズムと視線がシンクロして調和するコミュニケーションを研究をした。

その後、多数の実験を手がけてきた瀬島だが、特にユニークなのが「集団注視」だ。この実験は、講演者が講演をする際の注視時間、視線交差・視線はずしといった眼球動作が、聴衆の反応とどう関係しているかを解析したものだ。

実験によると、講演者は中央を60%、左側を30%、右側を13%の割合で見ていた(注視回数は同程度でも注視時間に差が出る)。これをCGにして割合を変えながら集団に観せたところ、聴衆は「注視割合は偏りがあるほうが好ましい」「左側の割合を増やすと視線を感じ、一体感も高まる」ことがわかった。

つまり、スピーチは左側を意識した方が効果的なのだ。均等な配分で視線を送ると、かえって「熱心でない」と感じられるのだという。それは、なぜなのだろう?

「集団注視」の実験のためのCG映像。

「これ、理由はわからないんです。利き手や利き目などの身体的な癖と関係するのか、舞台の上手下手や交通ルールといった文化と関係するのか……明確には関連付けられません。こんな風に、よくわからないんだけれども、実験してみると『関係性はこうだ』と明らかにできることがこの分野の研究ではよくあるんです」

「この実験は、国際学会で発表するととても反応がよいんですよ。ジェスチャーやボディランゲージの研究は海外のほうが進んでいますし、目に対する感覚も日本より敏感なようです。反対に日本では、相手の目を見つめたりしない文化がありますからね。だけど実験では、『日本人でもこれくらい出てくるのだから、海外ならばもっと』と考えることができます。そんな感覚の違いも、視線コミュニケーションからのアプローチの面白さです」

身体的リズムによるコミュニケーションから視線によるコミュニケーションへ、そして、よりテーマを絞った瞳孔反応へと瀬島氏の研究は進められてきた。

キラキラな瞳は「心」を射止めるか?

瀬島が今、取り組みはじめているのが「瞳輝インタフェース」だ。

「目は、瞳孔がぐわっと開いて『相手を見てますよ~!』となると、安心感や共感といった感情が生じて信頼関係が構築されます。音声に応じて瞳孔を変化させると熱意が伝わることなども、これまでの実験でわかってきました。次は、どんな要素があれば“好きで好きでたまらない”になるのか、そっちをやっていきたいんです」

今後は、目の輝きを探求していくという。キラキラした目が人を魅了するのはなぜなのだろう? それがわかれば、人が人に惹き付けられる、好きになる仕組みの解明に一歩近づくのかもしれない。

「以前にやって失敗しているのですが、目の輝きは人工光源ではダメです。人の目は発光しないから、ウソになってしまう。そのため今は、涙でキラキラさせようとしています。人間の涙器構造(涙腺、涙袋、涙点)を組み込んで、サーボモータで水を制御しながら泣かせます。ウルッとした魅力的な瞳を再現したら、どのくらい“好き”になれるでしょうか?」

設計サイズは、顔面も眼球も、人間と同じにした。眼球は透明な半球体と小型ディスプレイで作られるが、ここには対面する人影を重畳合成して反射率が高い目であるように錯覚させる。対面者との距離に応じて瞳孔を拡大させて、あたかも相手に興味があるかのようにも思わせる。

頭の後ろ側にあたる部分のトレイに涙に相当する液体を注いでバルブをあけると涙があふれてくる。瞳輝インタフェースの実験装置。

ロボットの涙は人の目と同じように涙袋からあふれてくる。

このロボットが完成したら、「キミの瞳に乾杯!」となるのかどうか──。「最終目標は奥さんよりも魅力的なロボット」と語る瀬島の目標設定も気になるところだ。

「本物の妻には、『作れるもんなら作ってみろ』と言われています(笑)。妻と比較した時に、“心から強くつながりたい”と思える仕組みだと評価できるものになっているか、そこは本気でそう思っているんですよね」

「人と人は、コミュニケーションをして心をつなげています。また人は、人とつながりたい欲求も持っています。システムやロボットは、そんな欲求をシチュエーションを変えながら何度でも再現していくことができます。その過程で、人と機械の“差異”も露わになっていくんですね。見えてくる差異を繰り返し検証していけば、『心がつながる仕組み』も解明できていくのではないか、そんな風に僕は考えています」

「人と人」のコミュニケーションや「心」さらには「好き」であることを研究のベースに据える瀬島氏だが、本人の瞳がキラキラと輝いていたのが印象的だ。

プロフィール
瀬島吉裕(せじま・よしひろ)
1982年、岡山県生まれ。2010年岡山県立大学大学院情報系工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。山口大学大学院理工学研究科助教。岡山県立大学情報工学部助教を経て2019年より現職。専門分野は、ヒューマン・ロボット・インタラクション、ソーシャルロボティクス、2015年 IEEE RO-MAN2015, KAZUO TANIE AWARD(最優秀賞))受賞。

関連URL:
http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~sejima/