的場やすしが開発した「流動床インターフェース」は、幅広い用途に応用が効く装置だ。異能vationプログラム終了後も、可能性の追求は続いた。そのひとつが、災害の疑似体験である。
(インタビューの前編では概要を、中編ではその可能性を聞いている)
神奈川歯科大学の板宮朋基教授(当時は愛知工科大学)が開発した疑似体験型AR「Disaster Scope2」と流動床インターフェースを組み合わせ、洪水の疑似体験ができる装置を製作。2019年に東京ミッドタウン日比谷で行われたイベント「日比谷体験型防災訓練」で披露した。
流動床インターフェースは、砂を入れた容器の底から空気を送り込み、砂が液体のように流動化する仕組みになっている。中に入って歩くと、送り込む空気の量によって歩きにくさが変わる。空気の量を少なくすると歩きづらくなり、空気を止めると足が固まって泥に埋まったような状態になる。
「洪水って、あらかじめ体験することがほぼできないですよね。しかしARで洪水の映像を見ながら流動床インターフェースの中を歩くと、結構リアルな洪水の疑似体験ができます。水で足が動けないというのがどういうことなのか、感覚としてわかる。洪水の怖さが実感できると思います」と的場は言う。
もちろん引き続き、エンターテインメント用途も的場の関心事だ。最近では砂の表面をタッチパネル化し、おもちゃの剣を突き刺すとプロジェクターで投影した映像がさまざまに変化する作品を製作した。自分の動きによって映像が変わっていく様子に、子どもが目を輝かせる。
「流動床インターフェースにはさまざまな可能性があって、エンターテインメント用途でもまだいろいろと面白いことができそうです。テーマパークやコンサート、舞台などで実際に使える装置を作ってみたい」と的場は夢を語る。
的場の創造の原動力になっているのは、「今まで誰も想像していなかったものを開発したい」という思いだ。しかし、今までになかったものは周囲からの理解を得られにくい。流動床インターフェースも開発の当初、都内にある知り合いの大学の研究室に共同研究を持ちかけたが一緒に開発を進める学生が見つからなかった。
お風呂の水面がタッチパネルになる「AquaTop Display」も、最初に提案したときの周りの反応は「お風呂はそういうところじゃないでしょ」といったように芳しくないものだった。しかし、実際に開発すると高い評価を受け、フランスで開催されたLaval Virtual 2013でグランプリを受賞するなど、数々の賞に輝いた。
「大学でも会社でも、変わった発想の研究って認めてもらえないことが多いと思うんです。特に日本ではそうかもしれません。でもそれはすごくもったいなくて、実はすごくいいテーマが埋れていることが多いと僕は思っています。異能vationの他の研究を見ていると、世間ではあまり素直に認めてもらえないようなものが多く選ばれています。いいアイデアを認めてもらえるかもしれないチャンスなので、恐れずにチャレンジしてほしいと思います」。ものつくり大学総合機械学科で客員教授も務める的場は、「今まで誰も想像していなかったもの」が自分だけでなく、社会で次々に生まれることを楽しみにしている。