福家信二は、2018年度、2021年度の2度にわたって異能vationプログラムで先天性心疾患の出生前診断法の開発に取り組んだ。今もこの開発を進めているが、「産婦人科医としての究極の目標は、血圧がわかる胎児心拍モニタリング」だと言う。
通常、胎児の心拍数はモニタリングしているが、それでも新生児の脳性麻痺は減らなかった。新生児の脳性麻痺が発生する原因は、胎児期の低血圧にあると見られている。心拍数をモニターしても血圧がモニタリングできているわけではないので、脳性麻痺の兆候を見つけることにはつながらない。
「超音波で心臓が作った圧エネルギーを計算しようと思ったら、心臓の容量の変化と血液の流速がわかる必要があります。僕が開発した3DCGのモデルを使えば、容量の変化を見ていくことができます。あとは流速さえ測れれば、心臓がつくっている圧エネルギー量の状態が把握できます。心臓で作っている圧エネルギーの計算ができる時代が来るはずです」と福家は未来を見据える。
ただ、これには時間を要することも覚悟している。「僕が一生かかってもたぶん、たどり着かないことだと思います。僕がやっていることは20年後、30年後先の、そこの一番最初の扉を開けること。大人ではなく一番難しい症例になる胎児の心臓でここまでできるというところを示しておけば、誰か追随する人が生まれるだろうと信じてやっています」という認識だ。
福家は産婦人科の医師として日々診療にあたりながら、こうした自分の研究を進めている。特許取得の費用などは持ち出しだ。
「私には十分な超音波撮像技術と読影能力もあり、3次元超音波の理論に対する知識もあります。この研究を情熱かけてやれるのは、臨床科医でこのような知識を持つ者に限られると思っています。この研究は仕事というより、趣味みたいなものと思っています。子どもの頃、誰の足跡もついていない雪道を歩くのが好きでした。世の中で誰も知らないことを自分だけが知っているというのは幸せな時間です」と福家。心臓疾患、そして脳性麻痺の早期発見と治療を目指して、福家は誰も歩いていない雪の上を歩き続ける。