福家信二は、胎児の先天性心疾患(Congenital Heart Disease: CHD)を発見する理論を考え、2018年度の「破壊的な挑戦部門」に選ばれた。
福家の理論は、こうだ。超音波を使って正常な胎児の心臓のスライス画像を撮り、積み重ねていく。積層方式の3Dプリンターと同じ要領だ。これを3方向から行い、組み合わせると、正常な胎児の心臓の3DCGモデルが出来上がる。この正常なモデルのスライス像と、対象とする胎児の心臓のスライス像を重ね合わせることで、その心臓が正常か正常でないかがわかるという仕組みだ。
研究を進めると、この方法で実際に心臓の正常・非正常が判断できることがわかった。さらにこの方法で、特許も取れることがわかった。しかし、問題があった。「超音波やCTなどで医療用に使われている画像データは、DICOMと呼ばれる国際的なフォーマットになっています。このDICOMファイルは一種のブラックボックス、つまり不可触な情報になっており、画像を取り出してほかの画像と重ね合わせるようなことができなくなっているんです」というのが福家の説明だ。理論として成り立つことは証明できたが、実践は不可能。ここまでで、福家の1回目のチャレンジは終わりを迎えた。
しかし福家はこの問題を解決する方法を見出し、2021年度に再び異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」に挑戦、採択された。
突破口となったのは、「Materialise Mimics」というソフトウェアだった。この医療用画像処理ソフトは、外部で作成した3DCGモデルをそのまま読み込むことができる。2018年度のチャレンジは理論上は成り立つものの、実践は不可能だった。それが実際に、胎児の心臓のスライス画像に、正常な心臓の3DCGモデルを重ね合わせることができるようになったのだ。これで心臓に異状があれば、簡易に、速く発見することが可能になる。
ただ、この方法にもハードルがあった。胎児の心臓は、妊娠週数によって大きさが異なる。また、形にも個体差がある。正常な心臓の3DCGモデルをその胎児に合わせて変形させなければ、画像に重ね合わせて診断することはできない。下大静脈、下行大動脈など対象とする胎児の心臓から特異点を7つ抽出し、特異点に合わせて変形すればその胎児に合う心臓の3DCGモデルができることはわかっていた。このような変形を行うにはそのためのソフトが必要となるが、産婦人科医である福家はソフトを開発する知識を持ち合わせていない。
「いろんな人に相談したのですが、『100例に1例ほどしかない赤ちゃんの先天性心奇形のために開発費を出しても、ビジネスとして成り立たない』という返事がほとんどでした。ソフトの開発に協力してくれる企業や研究室があればいいのですが、ソフトの勉強をして自分でやるしかないかなと思っています」と福家は言う。
次回は、異能vationプログラム以降の活動について話を聞く。
後編(3月9日公開予定)に続く