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健常者には見えていない世界を体験させる「発達障害者体験MRシステム」(後編)

2020年度「破壊的な挑戦部門」の挑戦者である宮﨑英一は、異能vation終了後も開発を進め、発達障害を持った人に加えて脳性麻痺の人の世界の再現にも関心を寄せている。
文:山本貴也

宮﨑英一は、異能vationプログラムが終わったあとも発達障害を持った人の困難を日常生活で体験するMRシステムの開発を続けている。

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現在取り組んでいるのは、プログラム中に実現できなかった画像認識機能の拡大だ。

「今AIの勉強をしているのですが、小さいAIカメラを360度カメラと並行して使うと、周囲にどれくらいの人がいて、誰がこちらを向いているかが認識できるようになります。人がたくさんいることによるパニック、見られていることでパニックを起こす人の世界が、これで再現できるようになります」と宮﨑は意欲を示す。

機材

宮崎のMRシステムで使われているAIカメラとVRヘッドセット

宮﨑は自分のMRシステムを普通の人に体験してもらうだけでなく、発達障害を持った人の勉強会で使ってもらいたいという希望を持っている。

「発達障害を持った人のサポートに取り組む先生方の中には10年も20年も研究を続けている方がいらっしゃいますが、発達障害の視覚過敏、聴覚過敏がどのようなものかという知識は頭に入っていても、それが実際にどういうものなのかはそうした勉強ではなかなかわかりません。私が作ったMRシステムを着けてもらうと『本当はこうやって見えているのか』と驚かれます。多くの先生に体験していただきたいですね」と宮﨑は言う。

宮﨑が視野に入れているのは、発達障害を持った人だけではない。重度重複障害の人の世界の再現にも関心を寄せている。重度重複障害の人の世界は、歯医者で麻酔を打ってもらったときと似ているという。歯茎などに麻酔を打たれると、口の周りの感覚が麻痺する。口は歪み、指で触っても感覚がなく、水を飲もうとしても口からこぼれてしまう。

「重度重複障害の人は、あの感覚が全身に及んでいると考えるとわかりやすいと思います。それが擬似体験できるデバイスを作ると、重度重複障害の人に対するサポートの理解も深まるはずです」と宮﨑は研究の発展の可能性を感じている。

宮﨑は異能vationプログラムへの最初の応募では選ばれず、2回目の応募で「破壊的な挑戦部門」の挑戦者となった。そんな宮﨑に面白い研究・開発のアイデアを持っている人へのアドバイスを聞くと、「出すこと」だという答えが返ってきた。

「やっぱり出すこと、応募することが大事だと思います。周りの人に意見を求めると『面白いね』とか『何の意味があるの』とかいろんな反応が返ってきますが、それはあくまで自分の周りにいる人の意見でしかありません。異能vationプログラムに応募すると、各界の専門家の方々からまったく違う評価をいただけます。私も最初に応募したときは自分ではOKだと思っていたのですが、『ここがダメ』『ここが弱い』と厳しい意見をいただき、非常に参考になりました。選ばれなかったとしても次につながっていくので、まず出して欲しいと思います」と当時を振り返る。

応募して落選してもそれを次につなげる粘り。それが、発達障害を持った人の困難を日常生活で体験するというユニークなMRシステムへの道を切り拓いたのだ。

宮﨑英一

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