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診断サポートや遠隔医療に革新をもたらす「超聴診器」(前編)

小川晋平

心電と心音をAIで解析する「聴“心”器」で2017年度の「破壊的な挑戦部門」に選出された小川晋平。その元にもなり、同氏が起業して取り組んでいる「超聴診器」の話をまずは聞いていこう。
取材・文:山本貴也

2017年度の異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」に選出された小川晋平は、普通の聴診器の機能を超えた「超聴診器」の開発を軸に医療の革新を目指す医師である。

「超聴診器」の正式名称は、「心疾患診断アシスト機能付遠隔医療対応聴診器」という。心電図と心音を同時に計測し、そのデータを独自のアルゴリズムによってAIが処理。医師の正確で迅速な聴診をサポートするとともに、データを通信で送ることで遠隔医療も可能にするデバイスだ。

小川は熊本⼤学医学部を卒業後、循環器内科医として急性疾患、重症患者に24時間体制で対応する急性期病院に勤務した。ここでの経験が「超聴診器」のアイデアへとつながる。

病院には、心停止の状態で緊急搬送される患者が少なくなかった。その大きな要因となっていたのが、大動脈弁狭窄症である。この病気は心臓の大動脈弁が硬化し、血液が流れにくくなるもので、症状が進行すると心不全や突然死の原因となる。日本に100万人もの潜在患者がいると言われており、早期での発見が重要だ。

「早い段階で適切な医療を提供できれば、深刻な症状になることを防ぐことができます。そのために、医師の正確で素早い聴診を可能にする、進化した聴診器が必要だと考えました」と小川は言う。

小川は、急激な医療革新で技術を極限まで高め、革新的な医療を世界中に届けることをミッションとして2015年にAMI株式会社を設立。この会社で、「超聴診器」の開発を本格的にスタートする。

その翌年、小川に縁の深い熊本でのちに「熊本地震」と名付けられる大地震が発生した。小川は、医療ボランティアとして被災地に入る。ここで実感したのが、遠隔医療の重要性だった。

2011年の東日本大震災での経験が生かされ、被災地ではDMAT(災害派遣医療チーム)を中心に医療体制が作られた。現場の医師は日中、被災者の診察・治療に追われて疲労困憊。夜は休んで翌日の活動に備えることになる。しかし、避難所には夜に多くの人が集まってくる。小川はドクターカーに待機して呼び出しに備えたが、1人の患者からの連絡で避難所に駆けつけると長蛇の列ができたという。

ドクターカー

ドクターカーに乗る小川

一方、状況を知った全国の医師からは「何か手伝えることはないか」とひっきりになしにSNSで連絡が入る。「もちろん現場の医師も対応しますが、こういう時に遠隔で聴診などができれば、遠隔地の医師が夜の避難所を守れるのではないかと感じました」と小川は熊本での経験を振り返る。

遠隔医療は在宅医療、医療機関が少ない僻地などでの医療にも役立つのはもちろんのこと、災害時の医療にも重要となる。心臓の異常の早期発見、そして遠隔医療。「超聴診器」の柱が定まった。

次回は、異能vationプログラムでの開発について話を聞く。

小川

中編に続く


小川晋平プロフィール

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