藤原麻里菜がYouTubeにアップする無駄なものづくりの動画は人気を集め、視聴者やチャンネル登録者が増えていった。また、藤原のユニークな作品は企業からも注目されるようになり、企業からの依頼で作品を作るクライアントワークも増えていった。
クライアントワークをこなすと、収入が得られる。いつしか、藤原は無駄づくりで生計が立てられるようになっていた。アルバイトをしながら、何とか無駄なものを作る時間を見つけるような生活からは解放された。しかし、そんな状況に藤原は違和感を覚えるようになっていた。
「クライアントワークばかりやってしまって、それに追われるような生活になっていたんです。本当に自分が作りたいものを作らず、自分が最初に感じていたものづくりの喜びみたいなものがなくなっていました。そういうときに異能vationプログラムのことを知って、1年間支援してもらえるということで応募しました」と藤原は言う。
2019年度の異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」に選ばれると、藤原は収入を得るためにやっていたクライアントワークや抱えていたウェブメディアの連載などをすべてやめ、自分が作りたいものを作ることに専念した。
その良い影響は、プログラムが終わった現在も続いているという。仕事としてクライアントワークはこなしつつ、それを基本とはせず、個人制作を基本とする。「クライアントワークをしてお金を稼ぎながら、自分が作りたいものを作るといういいサイクルができたのは異能vationプログラムのおかげです」と藤原は言う。
もちろん、異能vationプログラムの影響はそれだけではない。支援により3Dプリンターなどの工作機械、またマイコンボードであるArduinoやサーボモーターなどのパーツを大量に購入できるようになり、「アイデアを思いついたらすぐに作れる環境が手に入りました」と藤原は喜びを表す。
自分が作りたいものをすぐに作れるようになった藤原は、異能vationプログラムの期間中にも次々に作品を発表していった。その中でも一番のヒット作が、「オンライン飲み会の緊急脱出マシン」。ボタンを押すと、通信状態が悪くローディング中に表示される放射状のアイコンがパソコンの前に物理的に立ち上がる仕組みになっている作品だ。
ほかの参加者には本当のアイコンでないことはひと目でわかるが、一時的に抜け出したいことがユーモラスに伝わるようになっており、2020年には明和電機とのコラボレーションで商品化もされた。
藤原が選ばれた2019年度異能vationプログラムの期間は、ちょうどコロナ禍の時期にあたっている。「あまり家から出られないぶん、アトリエにこもって異能のことをコツコツやることができました」とコロナ禍もプラスに捉え、作品を作り続けた。
次回は、今後の制作などについて話を聞く。
後編に続く