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“サンタクロース”と“ナマハゲ”は何が違うのか?

市原えつこ

市原えつこ(メディアアーチスト)は日本的な文化をテクノロジーで切り取ってみせる
文:遠藤論、翻訳:佐藤広子、英語版編集: 岡徳之
市原えつこ

いま日本にコミュニケーションロボットを提供する会社が60社以上あるそうだ。お店で接客するロボット、子どものための教育用ロボット、介護用ロボットなど、さまざまな目的で作られている。そんななかで、死者を弔うためロボットが「デジタルシャーマン」だ。

仏教において死んだ日を含めた49日間は、前世までの報いが定まり次の生にうまれかわるまでの期間とされる(『広辞苑』第四版)。その間に、遺族や近しい人たちは死者を弔う大切な期間とされている。デジタルシャーマンでは、コミュニケーションロボット(PepperやNaoが使われる)の顔に、死者の3Dプリントされたマスクを取り付ける。そして、49日の間、生前の本人のクセや発言を再現する。デジタルシャーマンを作った市原えつこさんに聞いた。

異能vationプログラムで開発した「デジタルシャーマン」は、日本の仏教の“四十九日”のためのロボットアプリケーション。

異能vationプログラムで開発した「デジタルシャーマン」は、日本の仏教の“四十九日”のためのロボットアプリケーション。

「きっかけは、2015年に、自分の祖母が亡くなったことです。その直後は、死が避けられないものであることに耐えきれない感じがしました。ただその一方で、お葬式などのしくみが《あ、これすごく良くできているな》と関心したのですね」

葬儀や火葬といった一連の様式化されたシステムが、身近な人が亡くなった喪失感を整理するのにすごくいいと実感したのだそうだ。それが、デジタルシャーマンという作品の形になったのは、彼女のキャリアとの関係が深い。市原さんは、ヤフーにいて2015年にソフトバンクが一般販売を開始した人型ロボット“ペッパー”のアプリ制作に携わっていたのだ。

「人型ロボットってスマホアプリなんかと違って存在感がある。それで、これから家庭用ロボットが増えるかもしれないので、ひょっとしたら亡くなった人をロボットに宿らせることが一般化していくのでは? と思ったのです」

デジタルシャーマンの説明をするとき、彼女は“巫女”の恰好をしてあられる。巫女とは、霊の意思を代弁する役割をもするものなので、それがデジタルシャーマンの役割を示しているわけだ。市原さんの作品活動は、日本的な古い文化や風習をよく観察して、それをデジタル化して切り取って見せようというものが多い。

1988年、愛知県生まれ。メディアアーティスト、妄想インベンター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。2016年にYahoo! JAPANを退社し独立、現在フリーランス。クリエーター事務所「QREATOR AGENT」所属。

1988年、愛知県生まれ。メディアアーティスト、妄想インベンター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。2016年にYahoo! JAPANを退社し独立、現在フリーランス。クリエーター事務所「QREATOR AGENT」所属。

デジタルシャーマンでは、生きているうちに顔を3Dスキャンしたり、亡くなった後に喋りたいことを収録したり、その人の体の動きを記録しておく。いままで、データを記録した人は約80人、その中で亡くなった人はまだいないが、その展示には、とくに女子高生など思春期とか多感な時期の方は真剣に考えてくれたり、薄々怖がっていたりするするそうだ。

デジタルシャーマンで、忘れてはならないのは死後49日間だけ動作させたら最後にデータを消してしまうということである。

「いつでも呼び出せるとしたらその先はディストピアしか見えないですよ。49日間というのは、結局、健全にその死者と遠ざかるための機能だと思うんです。それをなんか変に執着を産ませるようにするのは良くない。結局は、死んだことをちゃんと附に落とさせないといけないです」

SFの世界で愛する人を蘇らせてずっと一緒に暮らすことを夢みたりするのとはまるで逆のコンセプトだということだ。このことが、デジタルシャーマンが、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞、アルスエレクトロニカInteractive Art+部門でHonorary Mention(栄誉賞)などを受賞させたのだと思われる。

デジタルシャーマンでは、死者が喋らなかったことも音声合成によって喋らせることもやってみたそうだ。さすがに、これは倫理的に問題がありますがとのこと。

デジタルシャーマンでは、死者が喋らなかったことも音声合成によって喋らせることもやってみたそうだ。さすがに、これは倫理的に問題がありますがとのこと。

デジタルシャーマンのあと、市原さんは、死に向かいあい過ぎた反動で人間の生命のエネルギーみたいなものに傾倒するようになったそうだ。その頃に、フランス人写真家のシャルル・フレジェの『YOKAI NO SHIMA (ヨウカイノシマ)』という東北から沖縄まで日本中の自然の中に宿る、神や鬼たちのお面や衣装を撮影してまわった本に感動する。土俗的な風習や祭りが面白い。市原さんが好きだった“ナマハゲ”もその中の1つだった。

ナマハゲは、秋田県・男鹿市の伝統行事で、大みそかの夜に藁の装束に仮面の男たちが「悪い子はいねぇがー?」と言いながら家々をまわるものだ。“来訪神”に分類される風習で、サンタクロースも来訪神の1つである。市原さんは、男鹿市の役所にでかけて役所の人に地元の伝承についてヒヤリングをする。するといままで自分が考えていたナマハゲとは違うものが見えてきた。実は、集落の一軒一軒を回ることによって集落の治安を維持したり戸籍を管理するコミュニティ的な機能があったのだ。

2017年、それを現代の都市に移植したらどうなるのか「都市のナマハゲ」という映像+コスチュームの作品を作ることになる。

「都市のナマハゲ - Namahage in Tokyo」は、電通国際情報サービス(ISID)のオープンイノベーションラボと「日本のまつり RE-DESIGNプロジェクト」として取り組んだ作品。

そして、いま市原さんが取り組んでいるのが、「仮想通貨奉納祭」というお祭りである。世界中から仮想通貨を受け入れるサーバーをのせた神輿を作り、2019年11月9日(土)・10日(日)に東京都中野区の川島商店街で催される。着金するたびに大量のLEDファンが光り輝き、奉納した人の祈りは合成音声となって放たれるほか意外な形で実体化するという。また、バイオテクノロジーを活用した御神体も用意される。もともと御神体には植物や石など「生命」「生気」が見いだせるものが選ばれる。それらの地続きのものだと考えているそうだ。

「死」から「生命」へ、「祝祭」「奇祭」へと歩みを進めた市原えつこさんだが、そこには文化や風習など日本的な文化がある。

「仮想通貨奉納祭」は、キャッシュレス時代の新しい奇祭そしてその開催資金を集めるためクラウドファンディングを行い1,411,600円の支援を集めた。

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