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二酸化炭素は気候変動も起こすが、無限の可能性を秘めた物質だ

村木風海

村木風海(19歳)が「世界を変える30歳未満」である理由
文:遠藤論、翻訳:佐藤広子、英語版編集: 岡徳之

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高校生で旅行用スーツケース型二酸化炭素吸収機を作った村木風海は、今年の春から東大生。世界の17か国、主要34企業が2050年までに排出量を正味ゼロとするニュースが流れるいま、彼はどうしているのか? 話を聞いた。

「異能vationでは「ひやっしー」の開発をやっていましたが、いまは「とるっしー」という新しい装置を作っています。さらに、その次の研究をやっていることをアピールしたいです」

「ひやっしー」は、旅行用のいわゆるコロコロのついたスーツケースの中にきれいに収まっている。理由は、加湿器のような身近なものにしたかったからだそうだ。

「ひやっしー」は、旅行用のいわゆるコロコロのついたスーツケースの中にきれいに収まっている。理由は、加湿器のような身近なものにしたかったからだそうだ。

村木が作った二酸化炭素回収装置の愛称が「ひやっしー(正式名:CARS-α)」。彼は、この開発で2017年度の総務省の「独創的な人特別枠(異能vation)」の最終選考を通過したのだ。村木の「ひやっしー」は、車輪付きの透明なスーツケースに収まっている。「回収装置を加湿器みたいな身近なものにしたかった」のがその理由だ。

「部屋の中の二酸化炭素濃度を下げて、外のきれいな空気と同じようにできたら集中力があがります。分野によりますがそれで4倍にも上がるという実験もあるんです」

通常、二酸化炭素回収装置といえば大型のプラント施設を想像する。おそらく2050年に排出量正味ゼロをめざす国もそうした施設を設計しているのだろう。それに対して、“加湿器”とは思いつかない。しかも、「ひやっしー」は、上部に液晶画面がついていて顔が表示されていて喋る。

その設計思想とでもいうべきものが日本らしいように思う。器物に魂が宿るという日本古来の思想がある。しかし、それよりも家電やゲーム機など、人が身近に触れる技術分野を得意とするところだ。そこが、なんとなく楽しい。

二酸化炭素研究は、中学生のとき「おや・なぜ・不思議応援プロジェクト」(通称:なぜプロ)という授業で「火星に住むには」というテーマを1年間やったのがきっかけだった。

二酸化炭素研究は、中学生のとき「おや・なぜ・不思議応援プロジェクト」(通称:なぜプロ)という授業で「火星に住むには」というテーマを1年間やったのがきっかけだった。

村木は、2歳の頃(!)からサイエンスが好きな傾向があったそうだ。山梨県で育った村木は、小学3年生のときに東京のサイエンススクールに月1回通うようなる。そこでは宇宙のことから微生物のことまで、さまざまな実験を通じて科学者としての姿勢を身につけたという。中には、豚の目玉の解剖実験もあったそうだ(ヒトの目玉と構造がほぼ一緒とのこと)。小学4年で山梨学院大学附属小学校(当時)に転校。そこでは、村木の質問に徹底的に一緒になって考えてくれる先生や、環境にもめぐまれた。

ふつうの大人たちは、二酸化炭素回収装置に限らず技術に関してはいま動いている装置やしくみを見て「こういうものだ」と決めてかかる。しかし、サイエンスはそうではない。世の中は未知なことだらけで、あとで見ればまったく常識はずれだったことが、1つずつ皮を剥くように解明されてきたのが人類の歴史なのだ。

村木は、炭素回収技術研究機構(CRRA)という組織の形でこの活動を続けてきた。今年、村木と同じ東大推薦生の2人が役員として加わった。

村木は、炭素回収技術研究機構(CRRA)という組織の形でこの活動を続けてきた。今年、村木と同じ東大推薦生の2人が役員として加わった。

「ひやっしー」に続いて村木が取り組んでいるのが、水溶液の形で吸収した二酸化炭素を気体の形で取り出す「とるっしー」という装置だ。それによって二酸化炭素をさまざまな化学反応に使うことができるようになる。たとえば、二酸化炭素から“メタン”を合成できるという。

「メタンが作れたら、もうこの世界のすべてを作れる。金属以外だったらすべてです。だから僕がいま着ている服とかペットボトルとか、石油製品と呼ばれているものはすべて二酸化炭素から、つまり大気から作れる可能性を秘めているんです」

村木は温室効果ガスの削減だけでなく、削減した先のビジョンまで描いていたのだ。これを現実のものとするために、村木は、メタン生成の研究で有名な広島大学の教授を訪ねた。そこでやったことが、なんとメタン生成の研究に一石を投じることになりそうだという。

「サバティエ反応というのがあるんです。二酸化炭素から直接メタンを作り出すもので、1913年にポール・サバティエというフランスの化学者が発表し、ノーベル賞も取った反応です。ところが、希少な金属などを触媒とした複雑なプロセスを必要とするために実用化されていなかった」

ここで、村木の常人でなさぶりが発揮される。実験が上手くいかず、広島大学の教授のもとから帰らなければならない期限が迫ったときに、研究室の片隅にあったアルミホイルにふと目をとめる。何かを閃いた村木は、二酸化炭素と水とアルミホイルを容器に入れ、機械で激しく振ってみた。すると、メタンが発生したことを示す結果が得られたのだ。

「もう嬉しくて嬉しくて、研究室のみんなで飛び上がって喜びました!」

このおそらく世界初と思われる実験結果は教授と検証中だそうだが、アルミホイルを使ったのはいわば偶然である。しかし、科学的な発見というのは案外そんな話が多いのではないだろうか? そして、それはまったくの偶然だけによるものかというとそうではない。

「水に衝撃を加えれば、分子の結合が切れて反応しやすい水素が発生するのではないか? それが二酸化炭素の酸素を奪って結合すればメタンができるのではないかと閃いたんです」

それは、持って生まれた潜在的な勘のよさなのか? 情熱のなせるワザなのか? 豚の目玉が大切だったのか? 正直わからない。また、この結果が今後どう発展するかも現時点では見えないわけなのだが。

今年、村木はForbes誌の「日本を代表して世界を変える30歳未満の30人」に選ばれた。それは、まだ業績を評価してのことではないのだろう。というのは、彼の本当のゴールは、人類の第二の居住地として火星を開拓することだからだ。「僕の研究は、地球温暖化を止めるだけでなく、火星の二酸化炭素に覆われた大気からロケットの燃料や宇宙飛行士の食料を作るためでもあるんです」。なんと、起点は“地球”じゃなかったのだ。

日本には“異能”という言葉がある。異能とは、既存の常識にとらわれない独創的な能力を持つ人のことをいう。この言葉は、現実から放たれようとする想像力とそれを科学でたぐり寄せる力のバランスとスケール感のことなのだろう。まさに、村木はその持ち主だ。

「60年代のアメリカは月に行くぞってすごい盛り上がったじゃないですか。そういう人類がわくわくすることとして夢と温暖化を結びつける。日本人として進めたいというのがある」

「60年代のアメリカは月に行くぞってすごい盛り上がったじゃないですか。そういう人類がわくわくすることとして夢と温暖化を結びつける。日本人として進めたいというのがある」

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