見る角度によって色が変わるモジュールを開発した藤木 淳は、異能vationプログラム期間中、時間の経過によって色が変わる方法を模索した。藤木はプログラムが終わったあともこのプロジェクトの開発を続けており、現在は距離によって色が変わる原理に取り組んでいる。
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「見る方向によって色を変える方法は、僕の中ですでにできています。その原理と見る距離によって色が変わる原理を統合すれば、一種のバーチャルな空間が生まれ、裸眼VRのような面白い体験ができるようになるはずです」と藤木は期待を膨らませている。
ただ、藤木の関心はこのモジュールに留まらない。ほかの研究者と共同で、モノを生み出す世界観の探求も行っている。
昔の8ビット時代のファミコンゲームには、プレイしているときはさして違和感を感じないが、よく考えると現実的ではない表現がよく使われていた。たとえば、「マリオブラザーズ」では画面の右端に消えたキャラクターが、左端から現れる。「ゼルダの伝説」も、プレイヤーが動かす主人公・リンクは進む方向によって絵が切り替わるが、基本的にほかのキャラクターは上から見た絵になっており、視点が混在している。
「ゲームクリエイターは制限がある中で、あり得ないけど自然に受け入れられる表現を作ってきました。そうした設定が受け入れられるのは、世界観によるところが大きいという話を共同研究者の方としています。昔のSF作品も今の工学系研究に影響を与えていますが、それに通ずるところがありますね。世界観がのちの研究、表現につながる。新しい種を生み出す母体としての世界観です」というのが藤木の説明だ。
藤木の関心は多岐にわたるが、根底にあるのは「普遍的な原理を作りたい」という思いだ。「3DCG開発をやっていたときもアルゴリズムに興味がありました。アルゴリズムにも、誰にでも使える普遍的な原理という側面がありますよね。立体物造形のためのユニットモジュールの開発も世界観の研究も、普遍的な原理を見つけ、残すことにつながったらと思っています」と藤木は言う。
ときには壁に当たりながらも研究・開発を続ける藤木は、「僕の周りでも異能に応募して、すごくいいことやっているけどダメだった人もいます。通ったら通ったでハッピーですが、通らなくてもめげずにやり続けて欲しい」とのメッセージを残してくれた。やり続けた先に今まで見えていなかった世界が待っていることを、藤木は知っている。