2016年度の異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」に選出された藤木 淳の挑戦は、「視線方向と時間経過に応じて色変化する立体物造形のためのユニットモジュールの開発」だ。透明なアクリル球が窪みに埋め込まれており、これが1つのモジュールを形成する。アクリル球は見る角度によって色が変わる仕組みになっており、このアクリル球で立体物を覆うと見る角度によって立体物全体の色が変わったように見える。
窪みの表面には計算によってさまざまな色が分布されており、見る角度が変わるとアクリル球が拡大する箇所が変わり、色が変わって見えるというのが基本的な原理だ。二次元上で見る角度によって色が変わる仕組みはすでに存在したが、立体物の色が変わって見えるというところに藤木の研究の独自性がある。
藤木はもともと3DCGの研究を行っていた。その中で開発したフリーソフトに「OLE Coordinate System」(以下、OLE)がある。
だまし絵で有名な版画家マウリッツ・エッシャーに、「上昇と下降」という作品がある。階段がロの字型に1周しており、永遠に上り続けられるようにも、永遠に下り続けられるようにも見える作品だ。錯視を利用したもので、三次元ではあり得ないことが二次元上では成立しているように見える。
OLEもこれと同じように、錯視により途切れている道が見る角度によってつながって見えたり、ジャンプしても同じ道に戻ったりする効果を利用しながら、プレイヤーは画面上の人物を動かしていく。
「切れている道がつながるって、三次元ではあり得ないですよね。でも二次元の画面上では成立しているように見えます。この三次元と二次元のギャップ、あり得ないことが起こるという現象が面白かったんです」というのが藤木の説明だ。OLEはのちにPSP用ゲームソフト「無限回廊」に発展し、一部に熱狂的なファンを生んだ。
藤木は以前から立体物に興味があり、学生時代はプロダクトデザインを専攻していた。OLEはゲームソフトだったが、立体物においてもあり得ない表現ができないか──。そんな思いから生まれたのが、見る角度によって色が変わる立体物のアイデアだった。
見る角度によって色が変わるフィルムやシートなどはすでにあった。しかし、そうしたものはすべて二次元のもの。三次元の立体物では、実現していなかった。
透明な球状の物質を通るとき、光は屈折する。この原理を応用して、さまざまな色を分布させた窪みに透明なアクリル球を埋め込むと、見る角度によってアクリル球の表面に現れる色が変化する。この窪みとアクリル球のセットを1つのモジュールとし、組み合わせると、見る角度によって色が変わる立体物を構成できるようになる。
藤木は、ここまでは大きな困難なく技術的にクリアできた。しかし見る角度だけでなく、別の要因でも色が変わる立体物のアイデアを持っており、これが異能vationプログラムへの応募につながった。
次回は、異能vationプログラムでの開発について聞いていく。
中編に続く