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女子の“盛り”を工学的に解明する「シンデレラテクノロジー」

久保友香

女の子たちがこだわる、つけまつげのアレンジやメイク、こうした“盛り”具合を工学的に解明する久保友香の「シンデレラテクノロジー」だが、実際に挑戦すると当初の思惑とはだいぶ異なった方向性が見えてきたという。
取材・文:山本貴也

──なぜ「盛り」方を工学的に解明するというテーマを?
 日本人の美意識を数学で解明してみたいと思い、大学院では美人画に取り組みました。美人画は高松塚古墳の女性像から大正時代の美人画まで、実際の顔をデフォルメして描かれています。美人画を工学的に計測して法則を見出し、デフォルメの方法を数式にする研究を行ないました。その研究を進めるうちに、メイクや画像の加工で「デカ目」にしている現代の女の子も美人画と同じように捉えられるのではないかと思ったんです。

──面白い視点ですね。
 女の子たちはこうしたデフォルメを「盛り」と呼んでいたので、盛りの工学的研究です。最初はネットで拾った画像を計測していたのですが、フィールドワークでなぜ盛るのかという話を聞いてみたら、「自分らしくあるため」と言うんですよ。ビックリしました。盛っている女の子たちは同じような顔に見えていましたし、画像の計測から出た数値もそのような結果になっていました。しかし、彼女たちはつけまつげを自分流にアレンジしたりして、微妙な差異を作っていた。その差異によってコミュニケーションを図っていたんです。彼女たちがこだわっているまつげの密度とか長さとかを計測するには別の装置と方法が必要で、費用もかかります。それで、このプログラムに応募したんです。

──どのように進めました?
 まず女の子の顔を計測する方法を考えたのですが、これに結構時間がかかりましたね。
 素の顔を「リアルアイデンティティー」、メイクや画像の加工をしてSNSにアップしている顔を「バーチャルアイデンティティー」として、その差(ずれ)を工学的に計測します。装置を開発し、評価指標を作り、顔を計測して、とそこまでは良かったのですが……。
 以前の調査の段階では、女の子の盛りはとにかく目が重要でした。いわゆるデカ目ですね。そこで目の微妙な差異を計測できる装置を作り、調査を行ないました。
 しかし計測の合間に女の子と話していたら、「もうデカ目はダサいです。自撮りもあまりしません。今は他撮りです」と言われました。私が異能vationプログラムで研究を行なったのは2015年で、ちょうどスマホが普及してインスタが流行り始めた時期。技術を作ることに一所懸命になっているうちに、顔をアップで撮るための「顔盛り」の時代からシーンを演出する「シーン盛り」の時代へとトレンドが変わっていて、それに気づいていなかったんです。目を細かく計測しても、もはや意味はほとんどありません。

シンデレラテクノロジー

顔を捉える3Dスキャンには、最終的にはマイクロソフトの「Kinect」(キネクト)を利用。同じ条件で3次元モデルを作り、盛ったあとの写真とのずれをコンピューターを使って計測している。

──目論見が外れましたね。
 正直、マズいと思いました。でも、この失敗が今の私につながっています。私は盛りを計測して普遍的な基準を求めようとしていました。しかし、盛りは普遍的な基準というように固定的に捉えるのではなく、変化するものとして捉えなければならない対象です。トレンドの変化をどう捉えるかというのが、今の私の大きなテーマになっています。

──失敗が新たな方向性のきっかけになったんですね。
 はい。実は、私の盛りの研究は大学院ではまったく相手にされませんでした。でも異能vationプログラムは遊び心も評価する独特な基準があるみたいで、盛りという変わった研究も評価してくれました。最初の目論見は外れましたが、プレゼンをして研究が社会的に認知され、2019年には盛りの研究を書籍化することができました。これも異能vationプログラムのおかげだと思っています。
 私が実際にそうでしたが、今いるところで評価されていない人も、このプログラムでは評価してもらえるかもしれません。自分がやりたい挑戦を資金面での問題などから実現できていない人は、ぜひ応募してみてください。

久保友香


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