2019年度異能vationプログラム「破壊的な挑戦部門」に選出された生駒卓也の「点検出AIシステム」は、夜空から点(星)を検出する技術を顕微鏡の画像や衛星写真などに応用し、細胞などさまざまな“点”を検出しようとするものだった。しかしアイデアはあったものの、実際にそれが可能かどうかはわからない。採択された異能vationプログラムからの支援により、実践への研究が始まった。
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医学の世界では、細胞内の特定の部位を特殊な蛍光色素によって染色する細胞染色という技術が使われる。それに対して、夜空から星を検出するAIシステムを応用し、蛍光色素によって光を発する蛍光細胞を検出するというのが生駒のアイデアだ。「もともと星の撮影のために作ったものなので、星に使えることはわかっていましたが、ほかのものに使えるかどうかは未知数でした。顕微鏡で蛍光細胞を発見できたときは、うれしかったですね。これは星だけでなく、見えづらい“点”を検出するあらゆることに使えるという手応えがつかめました」と生駒は言う。
もちろん、蛍光細胞の検出は従来も行われていた。しかし、それまでは顕微鏡を視野の狭い高倍率にし、画像をなぞりながら細胞を観察しなければならなかった。狭い範囲の画像をずらしながら見ていくため、画像全体を見るには時間がかかる。それが、生駒のAIシステムを使用すれば低倍率で広い範囲を見ながらスピーディーに蛍光細胞を探すことができる。素早い診断、細胞の観察が可能だ。
生駒の探求はこれに留まらなかった。「点検出AIシステム」は、点の形状に反応するシステムになっており、孤立した点であれば対象を問わずに検出することができる。生駒は、試しに日本列島の衛星写真をこのシステムにかけてみた。すると、いくつもの点をシステムが抽出。ほかのデータと付き合わせると、海上にある点は漁船、内陸にある大きな点はダムだと予測できた。
「衛星写真に写った地上の光は、天体写真に写る星と同じようなもの。衛星写真の分析にも使えることがわかりました。このシステムの応用範囲はかなり広いはずで、私にもどのような使い方ができるか見えていないところがありますが、医学、理学、工学──この3つの分野ではかなり使えるのではないかと思っています」と生駒は期待を表す。
次回は、異能vationプログラム以降の展開について話を聞く。
後編に続く